生粋の道産子野郎@仮想通貨もってる?

札幌生まれ札幌育ちの25歳。生粋の道産子野郎が趣味である格闘技、仮想通貨、札幌のことについて書いていきます∩^ω^∩

ドラシンの日ーー怪物になった少女ーー“未完”

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【作品説明】

近未来、18歳の誕生日を迎えた少女はみなドラシンと言う怪物になってしまう。

ドラシンとは無頭蓋症のままこの世にでてきた赤ん坊にそっくりの怪物である。

つまりカエルのように目玉が非常に膨れあがっており、頭も脳もないのだ。

ドラシンは男の人肉を求めさすらう。

それを阻止するためには素手でドラシンの目玉を抉り出さなければならない。

そのドラシンを処分できるのはドラシンとなってしまった女が一番好んだ男だけ。

――何故なら、ドラシンには一番好んだ男にだけは襲いかからないという性があった。

 

第1章ーードラシンーー

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いつも自分を磨いておけ、あなたは世界を見るための窓なのだ。

《バーナード・ショー》

 

――ふと彼は思った。

人間はこのまま地球を食い潰してしまうのではないかと。

――ふと彼は嘆いた。

人は増えすぎたが故に人々が恐れた悪魔になってしまったと。

――ふと彼は感じた。

そうだ、増えすぎたからいけないのだ、悪魔を増やす女がいなければ僕達は地球と友達になれるはずだと。

――ふと彼は自嘲(わら)った。

地球を救わなければ――と。

 

「出産は殺害よりも重罪である」

その言葉を眞一郎(しんいちろう)は聞いたことがあった。

それも、うんと近い距離で。

「殺害は死の数を増やさないが出産は死の数を増やす」

眞一郎の鼓膜には呻き声にも似た男の叫びとともに女のヒステリックな鳴き声がこびりついていた。

「ねえねえ、聞いた? 高良って奴今日がドラシンの日なんだって」

高良とは同じクラスの女子である。

特に話したことはない……が眞一郎は少しばかりの息苦しさを感じていた。

「同年代の女子がドラシンになるとかこれが初めてじゃね? やばい、めっちゃワクワクする」

眞一郎とは対称的に和久(かずひさ)は自分が座っている椅子を揺らしながら興奮した声をあげている。

「だよね、あの大人しい高良がう゛ぁーう゛ぁー呻く姿なんて想像できないよ」

ヒロは口を大きく横に広げて笑いながら、ヌメヌメした声を発した。

和久はお腹を押さえながら潤んだ瞳を拭い、床に並んで座っている眞一郎とヒロに

「ちょっと見てて」

と耳打ちをし椅子から立ち上がると、スキップを踏みながら一番ドアに近い席へと駆けていく。

そして、和久はその席で縮こまっている由奈(ゆな)の肩をポンポンと叩き人の神経を逆撫でる口調でこう言った。

「ねえねえ、お友達が怪物になっちゃうってどんな気持ち? ねえ、今どんな気持ち? 」

和久がそう言った瞬間、ヒロは口にしていたガムを勢い良く吹き出した。

そのガムは寂しげに床をころころと、まるで埃を回収するかのように転がった。

それを見た眞一郎の胸の中に、また新たな悲しみがあぐらをかいて座りだした。

眞一郎の胸の中には随分前から何体もの悲しみがあぐらをかいて座りだしていたのだ。

それは日に日に増え、眞一郎の胸の中にはもう悲しみを溜め込む余裕などはなく、むしろ溢れ出てきそうだった。

いけない、このままでは誰かを不幸にしてしまう、と眞一郎は膝に手をつきながら立ち上がると、ふわんふわんと安定しない足取りで歩を進めた。

そして、寂しげに縮こまっている小さな背中を摩りながら由奈に声を掛けた。

「ちょっとトイレ行かない? 」

由奈は眞一郎の声を聞くと初めて顔をあげた。

怯えた子犬のようなその瞳は、眞一郎の張り裂けそうな胸に噛み付いた。

その瞳にはもう昔の輝きは残っていなかった。

女というハンデを背負いながらも少年野球チームでエースをやっていたあの頃の由奈の瞳は……。

眞一郎は由奈の小さな背中を摩すりながらそんなことを思っていた。

由奈は眞一郎の酷く悲しげな顔をみると、少しばかり躊躇いながらもその半開きだった口を上下に動かした。

「……うん、いいよ」

眞一郎は由奈がよろよろと立ち上がるのを確認すると、ゆっくりと廊下の一番端にあるトイレへと歩き出した。

「男のトイレについて行くとかさすがソープ嬢」

和久は黒に染まりきれていない赤みがかった短髪を弄りながら投げ捨てるように言葉を続ける。

「知ってた!? ゆなってソープ嬢って意味なんだよ」

――彼らの甲高い笑い声が聞こえなくなったのは、眞一郎達が丁度トイレの前についた時だった。

眞一郎はそのトイレを無視し、トイレの横にある階段を下ろうとした。

「あれ? トイレ…… 」

由奈は疑問を口にした。

眞一郎はすぐさまにこう返した。

「ちょっと外歩かない? 」

「え、でも授業は? 」

「いいよ、あんなの」

眞一郎はそう言ったが、本当はもう由奈に無駄な時間を使って欲しくなかった。

高良さんの誕生日――つまり今日は5月16日。

由奈の誕生日は丁度1週間後の5月23日である。

そう、1週間後に由奈はドラシンとなって死ぬのだ。

由奈は

「うん、わかった」

と言って眞一郎の後ろにくっついた。

それから眞一郎達は男ばかりがざわついている廊下を、時折男子生徒達とぶつかりながら進んだ。

そして外靴の入ったロッカーから外靴を取り出し、そのまま外の風にあたった。

「そうだ、そこのスーパーで何か買わない? 俺腹へっちゃった」

眞一郎は出口から出てすぐ横に見えるスーパーを指差して言った。

「うん、いいよ」

由奈はそう頷くと、眞一郎の歩調に合わせるようにして歩き出した。

風は少し強めに吹いている。

電線が風に揺れてブワブワと唸りをあげていた。

「うわ、風強いなあ……」

「そうだね……」

由奈は薄く笑いながら瞬きの少ない眞一郎の瞳を横目で一瞥した。

 

――スーパーの中では人々の猜疑心と動植物の死臭が洪水のように混じり合っていた。

50代前後の夫婦が開き直った悪魔のように豚肉を次々とカゴに放り込んでいる。

「何買いたい? 500円までなら奢れるよ」

眞一郎は明るい口調で、けれども諦観しきった瞳で由奈に問い掛けた。

「ん……いや、いいよそんな……」

「あ……そう? 」

「うん」

由奈はポツリと呟いた。

「奢ってもらうとかそういうの私苦手だから……それにどうせもうそろそろ死んじゃうからお金なんていらないよ」

「……」

寂しげな顔した眞一郎に少女由奈は健気にこう言った。

「でもね、別にいいんだ。これが地球の為になるような気がするし、みんなが言うようにそうらしいから」

由奈がそう言うと、眞一郎達の話しを聞いていた40代前後のガタイの良いおじさんが由奈の肩をボスリと叩いた。

「ほーう、嬢ちゃんもうすぐドラシンになんのかぁ! 」

顔がうっすらと赤く染まり、口からはアルコールの臭いがする。

どうやらおじさんは少し酔っ払っているらしかった。

由奈はやや驚きながらも明るく

「はい」

と応えた。

「自己犠牲、それは生き物として最も高貴なる行為。素晴らしいことだ」

「そう思います」

「そこの兄ちゃんが嬢ちゃんの目玉を抉るのかい? 」

おじさんは目に笑い皺を刻みながら由奈の隣にいた眞一郎を指差して言った。

「は、はい……その……」

由奈は気まずそうに横目で眞一郎を見た。

「感謝しろよぉ! 」

そう言っておじさんは由奈の背中を強く押し、豪快に笑いながら無駄にカラフルなお酒のコーナーへと消えていった。

由奈は眞一郎に

「アハハッ、もしかしたらそうなっちゃうかもしれない……ごめんね」

と謝罪した。

眞一郎は

「いや、いいよ。それよりも……そうだ! ジャムパンでも買わない? 」

と逃げた。

「うん、いいよ」

あんまりである。

結果的に地球と人が共存するためとはいえ……。

あんまりである。

眞一郎達はジャムパンとミルクティーをそれぞれ1つずつ買い奇怪な空間(スーパー)を後にした。

風は相変わらず強く、それで舞い上がったゴミくずが眞一郎の頬を突き刺してきた。

「次はどこ行くの? 」

由奈は窮屈な明るい声で問い掛けた。

問い掛けられた眞一郎は暫し揺れる電線を見つめ

「ん~、どこに行きたい? 」

と優しく聞き返す。

由奈はうーん、と首を捻りながらやがて

「そうだ、公園、公園に行こう」

と歯を鳴らしながら笑った。

眞一郎は由奈の方を見て問い掛ける。

「公園? いいよ、どこの公園に行く? 」

「あそこに行かない? ほら昔よく一緒に遊んでた公園」

眞一郎は暫し黙考したのち

「ああ、西観(にしみ)公園? 」

と言った。

「ああ、そうそう西観公園! 小学生の時とか良く遊んでたよね」

「うん、じゃあそこに行こう」

眞一郎のその言葉を号砲に眞一郎と由奈はスーパーから徒歩10分程の西観公園に向かった。

公園に着いた眞一郎はふーっと一息つき、懐かしの光景を眺めた。

公園の中では2匹の飼い犬が追いかけっこをしている。

追いかけられている方はメスで追っている方はオスらしかった。

飼い主はその様子を穏やかな表情で見守っている。

「仲良しだねあの犬達」

その様子を見た眞一郎は微笑みながらそう言った。

「そうだね」

由奈も軽く笑った。

「微笑ましい光景だね」
オイ、ヤメロソコノオスイヌ。

由奈は微笑みながら2匹の犬を眺めている。

「きっと一生仲良しのままなんだろうね」
ソレイジョウチカヅクトオタガイガオタガイヲキライニナルゾ。

「そろそろ帰るよ」

犬の飼い主が手を二度ならし声を発した。

ヨシ、ソレデイイ。

愛情ヤ友情ナンテキマッテアツクナッタリアキラメノツカナイヤツガキズツクンダカラ。

飼い主の手の音や声に反応した犬は尻尾を振っている。

――が、瞳は尖っていた。

「ねえ」

由奈が朧月(おぼろづき)のような笑顔で眞一郎の肩を叩く。

「久しぶりにあれやってみない? 」

そう言って由奈が指差したのはうんていであった。

眞一郎は鏃(やじり)で掻き回された胸をわざとに張り

「おぉ、懐かしいね」

とうんていに目を向けた。

「つめた! 」

由奈はうんていの棒を握ると反射的に棒から手を離し、叫んだ。

由奈の言う通り、うんていに皮膚を当てるとひんやりとしている。

眞一郎は顰めっ面で苛立ちを吐いた。

「これじゃあ長く握れないじゃないか、気がきかないな」

それを聞いた由奈は目を丸くした。

それから眞一郎の方の顔を見ながらスカートを揺らし、クスリっ、と笑った。

「今の喋り方、なんだか子供みたい」

「そ、そうかな? 」

「うん、でもよかった」

「何が? 」

「だって目の前のことに集中していなきゃそんな喋り方できないじゃない。眞一郎教室じゃいつもなにか遠いものをみているから、その……」

由奈は恥ずかし気に目を泳がせながら言葉を探していたが、やがて言葉が無いとわかるとその口を左右に、ニカッ、と持ち上げた。

眞一郎はそんな由奈を見つめながらうんていの棒を握り

「やっぱりこれくらいが丁度よかったのか」

と感触を味わった。

そして、眞一郎は

「ごめん」

と由奈に謝り

「ねえ、久しぶりにどっちが多く懸垂できるか勝負しようよ」

と微笑んだ。

「え……懸垂? 」

「うん、懸垂」

「いいね!やろう! 」

由奈はそう言ってうんていの棒を握り締めた。

――風は強く吹いている。

水飲み場で水を飲んでいる犬が必死に尻尾を振っている。

――ブンブン、ブンブン。

それを見て嘲笑っている飼い主はまるで自分が動物好きの優しい人だと誇示しているようだ。

いつの時代もそうだ、人間社会に適応できない弱者は強者のステータスの一部でしかない。

弱者はそれを分かっている。

故に弱者は強者になってしまってから感覚が麻痺するまでのほんの数年は、己の精神との葛藤を強いられる。

これは弱者になってしまった強者にも言えることだ。

そして人間は自分の生活環境があべこべになってしまった時、滑稽によく笑う。

「4回しかできなかったかぁ……、眞一郎はすごいね、18回もできるなんて」

由奈はそう言うと、地面に向かって笑った。

「ニシシシシシシシっ」
 

病理じみた笑い声である。

「ニシシシシシシシっ」

空気が悲しみと切なさに彩られる。

眞一郎は滑稽に笑う由奈を慰めようとしたが、ふと伸びかけたその腕を引っ込めた。

滑稽に笑う今の由奈を慰めでもしたら、2人の間にはぽっかりと大きな穴があいてしまいそうだったから。

「ジャムパンでも食べよう」

――眞一郎はさすりと囁いた。

 

第2章ーーやる気じゃなくて能力がないんだよーー