生粋の道産子野郎@仮想通貨もってる?

札幌生まれ札幌育ちの25歳。生粋の道産子野郎が趣味である格闘技、仮想通貨、札幌のことについて書いていきます∩^ω^∩

基本的希望“短編、完結”

ーー基本的希望1ーー

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キリストの日……町にはしんしんと雪が降っていた。

酷く冷たい雪だ。

そんな雪に包まれた病院の一室で、僕は奇跡を目にした。

妻(真理)の体から真詩(まさし)が産まれたのだ。

「凄く、元気な男の子ですよ」と看護婦さんが微笑みながら(まあ心の底から微笑んでくれているかは分からないけども。)伝えてくれた時は、喜びに似た安堵を覚えた。

その夜、僕らは聖夜を病院の一室でのんびりと過ごすことにした。

聖夜が性夜と揶揄されるようになってしまったこの時代に、僕らは最高のプレゼントを授かった。
……まだまだ頑張れということかな。

などと真詩の小さな手をにぎり思った。

月の光と街のイルミネーションに照らされながらふと真理は「この子、どんな子になると思う?」と囁いた。

「うーん」とあまりにも率直過ぎる質問に僕は喉を詰まらせてしまった。

――声が出なかった。

子供の頃見たマンガで今と全く同じシーンがあったのだが、あの頃の僕はこの質問に対して「自分がしたいことをしてくれたらそれでいいじゃないか」とそのマンガのキャラと同じことを思っていた。

が、しかしそんなので本当に幸せになれるのかというあの頃とは少し違う感情が胸の中で渦巻いていた。

――これが責任という「奴」なのだろう。

僕は「まだ分かんないや」と声を絞り出し、真理に伝えた。

「そうなんだ、実は私もだよ」と真理は頬を掻いた。

その真理に、僕の焦点は驚く程に固定された。

僕の変化に気付いたのか、真理も恥ずかしげにこちらを見る。

僕らは初めて出会ったあの時みたいに、お互いを見つめ合った。

淡い、甘い感じだ。

恥ずかしげに笑いあいながら、僕らはキスをした。

しんしんと降る酷く冷たい雪と月光は、それをよりいっそう神秘的なものにした。

 

ーー基本的希望2ーー

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母親の温もりに似た、金色の船に揺られ真詩は目を覚ました。

朝の暗さは、彼の純粋な心には荷が重い、重すぎだ。

それでも、真詩は朝の挨拶をした。

父(一詩)へ「おはよう」と。

一詩は「おはよう」とボッコリと穴の開いた瞳を真詩へ向ける。

真詩の目蓋が少し開いた。

一詩は食卓にもつかずに、何も塗られていない食パンを顰めっ面で口へ運んでいる。

「今日も寒いね」と真詩は言った。

「そうだな、マフラーはしていけよ」と一詩は床に広がっているマフラーを見た。

一詩のだった。

「え……そのマフラー父ちゃんのじゃん」と真詩は目やにを取りながら、言った。

「いいよ、プレゼントだ。お古で申し訳ないけど」

「マジで?でも父ちゃんのは?」と真詩は床へ手を伸ばし赤いマフラーを手に取った。

一詩は半分くらいしか食べていない食パンを凝視していた。その瞳は心なしか虚ろだった。

そして食パンをわざと床に落とした。

「いいんだ、俺のは。この年でマフラーなんて……それに俺はマフラーが嫌いになったんだ。なぜかはよくわからないけど――」

真詩は言った。「年って……父ちゃんまだ46じゃん。それにマフラーは何歳でも似合うよ。」

一詩は真詩を見た。

気のせいか、真詩の心を「ウルサイナァ……」という言葉が横ぎった。

一詩の唇は動いていないのに、不思議だなと思った。

――一詩は眉間を親指の関節で擦りながら「いいんだ。例え真詩が言った通りだとしても。俺はマフラーが嫌いになったんだ。なぜかはよくわからないけど。」と言った。

真詩はまたしても不思議に思った。

「よくわからないのに嫌いなの?」

「ああ……。でもそういうもんだよ。訳の分からないものが人々を臆病にし、駄目にしていくんだ。特に理由なんてないんだけど。」

「ハハ……なんか嫌だな。」と真詩はマフラーについているホコリを手で払った。

「俺も嫌だよ……。」とすっかり外着に身を包んだ一詩は、床に転がった食パンを手に取りドアを開けた。

――ガチャン!!という嫌な音がコメカミをつく。

非情に冷たい風が身を縮ませてきた。

「じゃあ行ってくる。ちゃんとマフラーして風邪ひかないようにしろよ。」そう言った一詩の声はしぼんでいた。

「うん。わかった。」と真詩は父の背中に返事をした。

 

ーー基本的希望3ーー

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友達の家のお母さんが怖くてしかたがなかった。

その姿は性悪なケルベロスそのものでした。

僕が遊びに行くと必ず、ねっとりとした視線を僕に絡め、僕の体を縛り付けてくる。

お菓子を運んできてくれた時も、必ず笑顔の中にはそれがありました。

僕がトイレを借りる時もにんまりし、わざわざ後ろから付いて来るのです。

その度に、僕は縛り付けられ、後ろからはこう聞こえてきました。

「ハヤクシロ
ヨゴスナヨ
クサインダヨ」


――と。

 

――一詩が家を出てから、少しの時がたった。

今度は真詩が家を出て、学校へと歩き始めた。

冷たい空気が真詩の頬を殴り、苦しめる。

それに加え、氷やアイスバーンに怯える真詩の精神は凍えてしまいそうだ。

それでも、歩いた。

歩き続けた。

家から徒歩約20分の距離にある学校へ……。

真詩は歩き続けた。

――教室の中に充満した不安と恐怖、そしてほんのわずかな優越感。

雪水で湿った靴下を脱いでいる真詩に、今日もそれは噛みついてきた。

これらの日常の中に潜む人間のアホさに辟易しないよう、無駄に明るい曲ばかりを詰め込んだウォークマン……。

そのウォークマンの電源を切ると、真詩の机に手を置く人物がいた。

……真詩の友達である秀太だ。

秀太が「今日もギリギリだねぇ」と目を見てくる。

別に深い意味はないのだろうが、秀太の言葉は秀太の中でとはおおきく異なった姿になり、真詩を抑止する。

「まあね~」……と真詩はそれを追い出すために業と頬に皺を寄せた。

――秀太は今日も元気なようだ(そういうことにしておこう)。

「いや~、俺も徒歩で来れる距離だったらギリギリでくるんだけどな~、俺電車だから早めに乗らないと人混みがすごいんだよね。」と溜め息混じりに秀太は言う。

「あ~、8時頃はすごいらしいね。ラッシュアワーって言うんだっけ?」

「そうそう。マジで人多すぎだから。」と、一瞬秀太は何かを睨み付けた。

それから欠伸をし、涙腺から溢れ出した気だるさを親指で拭いながら……言う。

「ほんと、邪魔な人が多すぎるよ。俺と関わらない人みんな、消えればいい。」

秀太は笑った。

承認願望が強い痛い人だと薄気味悪がられないように笑いながら……愚痴をこぼしたくて仕方がない唇を動かした。

それを悟った真詩は苦しそうに目を細めた。

それはかつて、自分も思っていたことだからだ。

いや……正確には少し弱まったというべきかもしれない。

――現に真詩と秀太は2人ぼっちだ。

あとは父と――出来れば母。

それさえいればいい。

それさえいれば真詩達はもっともっと自由に、優しくなれるだろう。

その日の放課後、雑踏の中に紛れ込んだ真詩は閑散とした空気を感じながら考えていた。

あの時秀太が言った言葉に嫌悪しながらも共感せざるをえない自分のことを。

子供をおんぶしてその子に話しかける母親の姿が、真詩には1人言を呟いている精神異常者に見えた。

「次は終点――」という車内アナウンスの声はやけに色褪せていて――。

睨むように見上げた空はとうとうセピア色になってしまっていた。

――その夜、真詩は布団の中に潜り、久し振りに夢の中でお母さんにあった。

「何年ぶりかな……」と言葉を吐く。

黄色に近い金色……。

そんな空間の中で真理は真詩の胸に「そうだね……」と囁く。

真理は微笑んでいた。

微笑みながら「最近学校はどう?楽しい?」とそっと真詩に問い掛ける。

真詩は「う~ん……そこまで楽しいと思わないかな」と鼻を掻いた。

「どうして?」と真理が言うと、真理はそっと真詩の横まで歩み寄り腰をおろした。

真詩は久し振りに嗅ぐ母の柔らかな匂いに、泣きそうになり、ふう~……と顔を上げながら息を吐くと、暫しの間声を発することが出来なくなった。

真理はそんな我が子の横顔を愛おしそうに見つめ、真詩の言葉を待つ。

 

ーー完ーー